アニバーサリー
一ヶ月前のバレンタインの頃は、新型コロナウイルスの懸念はまだそれほど深刻なものではなくて、割と平和だった。
「友チョコ」を50人以上と交換する予定だと言う期末テスト目前の娘に代わって、前日にチョコチップクッキーを120枚焼いた。一週間前に試作したら、「まあ、私はこういう健康的な味に慣れているから美味しいと思うけどね、万人受けはしない」と娘にはっきりダメ出しされたため、全粒粉と薄力粉の比率を大幅に見直して、甜菜糖をグラニュー糖に変更した。
バレンタインデー当日は、ヘアサロン施術後に実家に立ち寄り、チョコチップクッキーとカード、マスクとエタノール消毒液を差し入れた。
そして毎度のことながら、帰りに母からあれこれお土産を持たされた。干し芋やら煮物やら饂飩やら鮭やら近所のお惣菜屋さんのイカフライやら。イカフライ。
いつもは黙ってなんでも頂戴して帰るのだが、イカフライ。「今日は一応結婚記念日なので夕飯にビーフシチューを準備しているのよ、イカフライは要らないわ」と思わず母に言ってしまったら、「ああ、そうだったわね、忘れていたわ、ごめんなさい、でも明日温めて食べてね」と抵抗虚しく強引に持たされた。
と、そんな話を夕飯の仕上げをしながら夫に話したら、「ごめんなさい!!」と。夫もその日が結婚記念日であることを忘れていたのだ。
帰宅してから冷蔵庫に何かをしまっていたので、デザートにケーキでも買ってきてくれたのかしら?と思っていたのだが、通りすがりの駅の構内で買い求めたヒロタのシュークリームなのだと言う。久々に食べたいな、と買ったもので、ああ、花を買うべきだった、とかなんとか。
一月場所の国技館で千代の富士の錦絵を買った時に、これでお互いにサプライズ的な結婚記念日のプレゼントはなしにしようね、と話していたのだが、当日は乾杯用ワインとカードを私は用意していた。普段より少しお洒落なテーブルセッティングに夫が驚き、落ち込み、なんだか気まずい夕飯に。
後日、謝罪と共にカードとシャンパンとアクセサリーが贈られたのだが、来年はいったいどんな結婚記念日になるのだろう。